コンストラクタル法則って何?

 

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

流れとかたち――万物のデザインを決める新たな物理法則

 

  実は、今まで頭の中でモヤモヤしたままの概念があった。

「地球(ガイア)は生きている」

何となく受け入れている概念なのだが、”じゃあ地球に意思はあるの?”とか、”人はガイアの手の上で弄ばれている部品なの?”とか引っかかる事もあった。

 それが、この本に書かれている「コンストラクタル法則」という物理法則によって生物、無生物(岩、水、空気)の区別なく一つの法則で語ることで、全てがストンと腑に落ちた。

 

 コンストラクタル法則とは、デザインと進化の物理法則。その意味するところは、次のとおり。

有限大の流動系が時の流れの中で存続する(生きる)ためには、その系の配置は、中を通過する流れを良くするように進化しなくてはならない。

  ざっくり言えば、生物だろうと無生物だろうと動くものはすべて、もっと容易に動けるように、良く動けるように、遠くまで動けるように進化していく、ということ。

 生命という定義には生物も無生物も関係ない。動きながら自由に変化している=流れているものが生命だ。流れが尽きた系には終焉(死)が訪れる。

 つまり地球(ガイア)に意思がなくても、「コンストラクタル法則」という物理法則に則って、地球上の全ての物質が流れを良くする方向に進化している。気流、水流、マントルの対流、動物の移動など生物、無生物に関わらず、この法則に基づいて進化している。

 そして、流れを良くするためのデザインは、自然物、人工物に関わらず、同じ法則に基づいたものに収斂していく。

なぜ脳細胞や肺胞、血管は、河川や空港施設と同じように樹状にデザインされていくのか?

なぜ鳥や魚が群れで動くときには、V字の隊列をとるのか?

なぜ胴が長いアジア人は泳ぎが早く、足が長いアフリカ人は走るのが早くなるのか?

なぜ組織は、ネット社会でフラットになったといわれつつも、ピラミッド型で情報が流れていくのか?

なぜ大学のランキングは、大きく変わることがないのか?

この本には、これらが同じ法則、同じデザインで流れていることを解説している。

その中から、一つの例を見てみる。

ー なぜ樹木は存在するのか?

 樹木や森林は大地から大気中へと水を運ぶために年中無休 ・昼夜兼行で働いている揚水所だ 。コンストラクタル法則の第一の疑問である 、何が流れているかという問いから始めるなら 、答えは水となる 。樹木は水を運ぶためのデザインだ 。

 根で周囲から水を吸い取り 、幹を通して枝に運び 、葉が光合成のために日光を捉えようと気孔を開くときに放出するという樹木のデザインは 、この仕事を効率的に行なうように調整されている 。実は樹木は地表から吸い上げる水の10%しか自分のために使わない 。大半はまた大気中に戻される 。

 樹木が 「発生する 」のは 、そこに水があり 、 (上方へ )流れなければならないからであって「木は水を好む 」からではない 。同様に 、河川流域が現れるのは 、水があり 、 (下方へ )流れなければならない場所だ 。どちらも 、局地的な水の流動と全体的な水の流れを促進するために現れ 、進化する生きた系だ 。

 

 すべてのデザインの根源は太陽からのエネルギーと地球の重力に基づくものである。

太陽からのエネルギーは地表に降り注ぐが、赤道付近では垂直に降り注ぎ、両極付近では水平に振り注ぐので、地球の加熱作用には"むら"ができ、海流や地球規模の気象パターンが始動する。温かい水と空気は両極に向かい、均一性を生み出すためにそこで冷たい水や空気と混ざり合う。ここに流れが誕生する。

 次に上空に上った水蒸気は冷やされて雨粒になり、重力に引かれて地表に落ち、地表の土粒の抵抗を受けながら重力に惹かれて高い方から低い方へ進もうとする。しかし、抵抗があるので最短距離では流れられないので1番抵抗が少ない方向に下っていく。

 つまり、全てのものは早く流れる(動く)ために抵抗が少ない場所を選び、抵抗が少ない形に進化する。

 これでなぜサメとイルカが非常に似た形をしているかがわかる。哺乳類の祖先は一度海から陸に上がり四足歩行になったが、イルカの祖先はまた海に戻った。海中を早く動くために適したデザインは流線型であり、イルカはまた流線型に進化していき、海中で一番最適な形に進化したサメと似た形になった。イルカは他の形に進化することは可能だったのか?いや、コンストラクタル法則に基づけば水中で早く動くための形は自ずと一つに決まってくるのだ。

  

 自然災害は悪か、それとも善か?

今回の堤防の決壊は人間が考えた想定外の大雨がもたらした結果だが、自然においては大量の雨が降る事は普通である。

 地球温暖化による大雨の発生は、コンストラクタル法則に基づいた進化である。なぜなら大量の雨がもたらす地形の変化は、水を早く流すために行われたことだからである。つまり人間が行った治水が古くなり、新しいデザインに変更する必要があったからである。河川は今後もっと多量な水を流すためにデザインを変更する。

 これから起こる自然災害に対応するため、人は住む場所を選びコンパクトシティーを作り、人間が使用する土地の面積を減らしていく必要がある。自然はそこに大きな川を作り、水を早く流し、人間の想像以上に速いテンポで地球のデザインを変えていく。自然は人間が住める土地を減らしていくので、人間はもっと密度の高いコンパクトシティーを作りそこに集中して住むことになる。その他の土地は、自然が支配することになる。もし人間が住める土地が地球上になくなった場合、人間は滅びるか、もしくは宇宙に移住するしかない。

 

 シンギュラリティは起こるか?

情報の流れも流動系であるなら、コンストラクタル法則に則って進化するはずであり、つまり、より早く情報を流すことができる機械が人間を置き換えて情報系の頂点に立つことは自然である。

 「ムーアの法則」に従ってCPUの処理能力は1.5年で2倍速くなっている。さらにAIと量子コンピュータの登場で人間が処理できる情報量をはるかに超える「機械」が誕生する。そこで議論になるのが、「機械」に意思(又は自我)はあるのか、ということだが、コンストラクタル法則によれば、意思の有無は関係なく、情報が速く流れる「物」であれば良い。そうであれば、AIが地球上の情報を制御して、その下で人間が働くことが一番効率がいい。

 人間は知恵を使って「機械」(蒸気機関、エンジン、コンピュータ、ソフトウェア)を生み出すガイアの中の歯車であり、作り出した「機械」が自己増殖を始めたら、それに従う一部品になるのではないか。それが遠い未来であることを祈る。

 

では、では。